「Game Developers Magazine」Post Mortem(事後分析)第5回
※以下の内容は日本語の原文となりますので「Game Developers Magazine」の英語訳と一部異なる場合があります。
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開発当初は物理エンジン(NVIDIA Physx)の採用により、今まで経験した事の無い、エキサイティングな世界を構築出来るものと確信していました。事実、それが本タイトルに寄与した部分は大きく、登場する様々な車両の挙動や、互いに影響し合う設置物、キャラクターの髪の毛の揺らぎ等、新しい世界を垣間見る事が出来ました。
しかしながら、決して良い事ばかりではありませんでした。そのリアルな物理挙動をゲームの世界に持ち込み過ぎた為、その挙動自体に私たちが振り回されてしまう事も多々ありました。
ゲームの世界は嘘を付かなければならない事が往々にしてありますが、物理挙動は正直なものです。デモシーンにおけるキャラクターのギミックの挙動や、車両の正確なナビゲーション等、都合の良いように嘘を付かなければならない局面において、物理挙動は相反するものでした。
制作過程において、私たちが期待する挙動にならない事が多く、上手く見えるようパラメータを調整する作業は難航を極めました。特にキャラクター周りについては、モーションデータを修正する度に物理挙動が変わってしまい、前回までOKだったものが修正後に途端にNGとなる等、予想外の展開になる局面も多々ありました。そういった現象はゲームプレイ中は勿論の事、各デモシーンにも及び、その修正作業には膨大な時間を要する結果となりました。
また、物理演算の処理負荷が予想以上に高かったという事も大きな誤算でした。当初、キャラクターの髪の毛や衣類、飾り等、物理エンジンで表現可能なものは全て搭載してしまった為、ゲームプレイにおいて快適な環境を提供する事が出来ませんでした。個々の動きを追及するあまり、全体の処理バランスを見失ってしまっていた、と言えます。
その結果、一定のフレームレートを保持する為、物理アクターの削減やシーン毎の計算負荷の調整等、最適化作業を行う必要が出てきましたが、本タイトルの特徴である「自由度の高さ」が逆に仇となり、様々なケースを想定した調整を行わなければなりませんでした。その期間は長期に及び、前述した挙動調整との兼ね合いから、多大な時間と労力を割く結果となりました。
物理挙動はゲームの世界にダイナミックな表現を与えてくれますが、必ずしも全てにおいて必要ではなく、使いどころを正確に見極める事が重要だと感じました。
前述のとおり、本作でBGM、ボイスアクターに関しては、うまくいったという手応えはありましたが、SE/5.1chサラウンドに関しては成功したとは言えませんでした。次世代ハードということで、グラフィックのスペックだけではなく、サウンドのスペックも向上し、表現の幅が広がるという魅力はありましたが、当時の我々では、ハードが持つポテンシャルを最大限に引き出すことはできませんでした。
この失敗を生み出した要素として、元々のサウンドリソースのクオリティーの問題もあるとはいえ、1番の問題は、アクセスゲームズにサウンド部署がなかったことが挙げられます。弊社では、サウンドをすべて外部の協力会社に委託しているため、社内でのサウンドに対する技術力、知識が足りず納得いくクオリティーコントロールがうまく出来ませんでした。また、その問題を看過して、協力会社を含めてマンパワーを補填する努力さえも怠っていたと言えます。
もちろん社内にサウンド部署を持たない開発会社であっても、クオリティーの高いサウンドを提供している作品はたくさんあります。他の作品のサウンドを研究し、本作で良いサウンドを表現するにはどうすればよいか?ということを、もっと議論して導き出すべきで、我々は自分たちの欠点に対して、改善しようとする施策を可能な限り考えるべきだったと思います。しかしながら、ボイスオーバー、BGMに力を入れるあまり、結果的に作業プライオリティとして、サウンドエフェクトという点が低くなってしまっていたということは事実ですし、非常に反省すべき点です。
なぜならば、BGM・サウンドエフェクト(SE)・ボイスなどゲーム中に再生される音の全てが重要でそれらが1体となって初めて「サウンド」と称することができるからです。
今思えば、スケジュール/マンパワーの精査なども含め、問題が大きくなる前に何か手が打てたのでは無いかと思います。ゲーム制作現場では、問題を起こさないことも重要なファクターですが、発生しうる問題や起こってしまった問題に対して、最善で解決できる方法をスタッフと導き出すことが最重要ということを改めて感じることが出来ました。
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次回 12月17日公開予定
・スケジュールコントロールとモチベーション維持
・結論
・データボックス②
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